ロンドンでもパリでも仙台でも、実際に訪れたことがある街についての文章と、一度も見たことがない街についての場合と、読んでいるときの「分かる」感じはまったく違います。それは、文章の背景、広い意味での「コンテクスト」がすでに分かっているからです。
ひとくちに「コンテクスト」といっても、背景となる知識をいう場合、いわゆる「文脈」のようなその文章自体の流れを指す場合、その文章が書かれた経緯やジャンルを指す場合などさまざまですが、文章を正しく読み解くためにはこの「コンテクスト」を色々なレベルでおさえておくことが不可欠です。それが出来て初めて、見慣れない単語や、複雑な文章も、丁寧に読み解いていくことが出来ます。感覚を身につけるために、まずは「コンテクスト」を理解しやすい、自分のよく知っているテーマの文章から始めること、そしてそれを繰り返す、つまり「たくさん読む」ことで、呼吸を身につけていくことが出来るはずです。
タイトルの通り、英文の読み方を解説する本からの抜粋です。英文読解の初歩として、まずは自分が好きで詳しいジャンルの英文を選んで多読してみましょう、と述べている部分です。
コンテクストの重要性は、仕事の翻訳のレベルでも同じ。「『コンテクスト』を色々なレベルでおさえておく」ために、専門分野の知識を高めたり、英語と日本語の両方で大量の読書をこなしたりなど、ふだんからの努力が欠かせません。
ただ、仕事となると、好きで詳しいジャンルの文章ばかりを選べるとは限りません。専門外の文章を訳さざるを得なくなることもありますし、専門分野の文章の中に、未知の分野の話題が出てくることもあります。
そんなときにお勧めしたいのは、当該分野の全体像をざっくりつかめるようなやさしい解説をまず読むこと。例えば、初心者向けや子供向けの解説書・ウェブサイトなどを先に読んで、「広い意味での『コンテクスト』」をつかんでからの方が、翻訳対象の英文の理解が深まり、訳文の質が格段に上がります。
私が経験した例では、翻訳対象のIT系の英文の中に、なぜか石鹸の作り方の話がヒョコッと出てきたことがあります。1つ1つの単語の意味は調べれば分かるけれど、全体として何を言いたいのかよく分からない・・・。そのとき役立ったのは、小学生が作ったウェブサイトです。学校の自由研究の成果とおぼしき、石鹸の作り方を紹介するページが、何も知らない僕にはピッタリ。すごく助かりました。
実際の翻訳対象の英文に早く取りかかりたくなる気持ちをグッとこらえて、まずは周辺から攻めてみる。その方が、結局は早く片づいて、質も高まったりするんですよね。
まあ、実際の仕事では、そんな悠長なことを言ってられないほど時間に追われてしまうケースも多々あるわけですが・・・。